TBS日曜劇場「グランメゾン東京」技術監修を通して感じたこと。【Restaurant TOYO Tokyo 支配人 シェフソムリエ 成澤亨太】
皆様はどんなご感想を持ちましたでしょうか??
まだドラマのタイトルすら決まってなかった半年くらい前にお話を頂いて、それから何度も助監督の方とミーティングをしてきた。
「同業者が観ても違和感を無くしたい。」自分に対するオファーの中心はそんな感じだった。
当初はまず、レストラン全体一日の流れ。そして徐々に細かいオペレーションへと話が及び、営業前のミーティング内容・伝票の書き方・予約受注・ワインの発注方法やどの様に選んでいるのか。
ネット予約が直前で入ったりキャンセルされたりするシーンは正に生きたレストランの雰囲気が出ていたと思う。
そこから劇中のワイン選定だけでなく、例えばメニューを選んでる時にテーブルにはアペリティフが無いとおかしい、とか、ペアリングワインをサーブするタイミングとか営業中のサービス・ソムリエの所作を違和感なく観られる様にしていく。
ペアリングのワインを選んで欲しいという申し出の時に、都度詳細な料理レシピと画像を資料としてご提出頂いていた事も、このドラマの本気度が伺える。こちらも本気で答えなければ!と真剣にワイン選定を行った。
gakuのオーナーを視聴者に、より憎たらしく感じさせたいというオーダーに銀行の人を接待するシーンでお店から出すのはこういうシャンパンだとか、具体的なワイン銘柄だけでなく登場人物の心理状態と表現したいシーンに合わせたワイン選定というのは今回、自分の中では大いに学びとなった。
制作チームの一瞬の細かいワンシーンのリアリティへの追求。本当に頭が下がる。
ワインの棚卸しのデータも参考にお送りし、それを元に劇中の台詞を構築して頂いた。
ペアリングで原価は下がる。という業界からは怒られそうなアドバイス、顧客満足と原価率の間で揺れるマネージャー・ソムリエの苦悩などなど、常に数字と現場の人間の気持ちはリンクする。
料理の監修は3つ星のカンテサンス、2つ星に選出されたINUAという事で自分のミシュラン星付きレストランでの勤務経験から、発表時期のシェフの様子やミシュランからどの様なアプローチを受けるのか、等は過去の経験からアドバイスをさせて頂いた。
シェフにとってミシュランの星というのは絶対的に特別なもので、発表時期の取っている星が増えるのか?維持出来るのか?はたまた星を落とすのか?という皆、誰も口には出さないけれど焦燥・自負・不安・自信が入り混じった、あの時期の独特の緊張感をもつ空気は自分自身も忘れられない。
ドラマにおいては一人、また一人と少しずつレストランにスタッフが集まり「チーム」を組成していく。
評価基準を「皿の上」としながらも、自分の主観ではミシュランの星に必要なのは「チーム力」であると思う。それは過去の勤務経験からも感じられた。
個々が突出していても駄目で、レストラン全体としてのチーム力が星獲得に繋がるという点においても、ドラマは良く再現されていた。
またフーディーの存在とその影響力に言及しているところも、ドラマとしては今まで取り組んでいなかったテーマであると思う。
特に顕著なのは世界ベストレストラン50(劇中では名前を変えていたが)である。投票権を持ったフーディー達により決定するランキングは近年、同業の中ではミシュランで星を取るより名誉であり、こちらに選ばれたいと思うシェフも沢山いる。
そのフーディー達へのアプローチ、大きな声では言えないが根回しの様なものとういのは現実でも行われている。
レストラン、そしてレストランスタッフの持つ想い・信条・プライド・危うさ・そして(労務環境も含めて)不満・・・それでも自分の信条に迷わず、お客様を笑顔に、癒しを与えたい。
フランス語で「回復させる」を意味する動詞 restaurer の現在分詞 restaurant が語源の「レストラン」という言葉。
その意味を皆に今一度、考え直して頂きたい。
Restaurant TOYO Tokyo 支配人 シェフソムリエ 成澤亨太